ジムランビー:アンノウン プレジャーズ

床面に展開される作品のせいだろう、美術館に入ってしばらく経つと、体ごと、この世ならぬ世界に入り込んだような心持ちになる。この世ならぬといってもあの世ではなく、絵本の中とでも言うような、別の世界。
その気分は、とりあえず前向き、である。抽象作品をみていると、たいていは何かを促されているような気がし、ぼんやりとながら圧迫感を感じたりすることもあるのだが、ジムランビーの作品にはそういうところがない。なんだか楽しいのである。
おもしろいけれど初めての感覚で、どう表現すればいいのかわからない・・・とまで考えて、タイトルそのままやん。と、コテッと思う。
こういうものを、作ろうと思って作れるものなのか。世界は広いなーと、目玉を洗われる思い(?)。

階段を上がった横に、須田さんの「此レハ飲水ニ非ズ(椿)」が展示してあった。
配管が剥き出しになったスペースに白い椿、そのうちの一輪は床に落ちている。
爆撃された市街地のようだと思った。今、この時間に、ひとつといわず数多くある戦地のどこか、落ちた椿はそこに散ったいのち。
友人に聞いたところによると、そこにかけてある花は、季節によって違うらしい。私の見た日は椿だったこと、その落ちた花にいかにも日本人らしく散ったいのちをイメージしたこと、それは偶然で陳腐といってもいいぐらいだが、それでも、わずかでも、祈らずにはいられなかった。

小ぶりの空間のなかで、色々な想いを行ったり来たりした。素敵な展覧会だった。雪の中つきあってくれた友人に、感謝。