心中天網島

初日の日本橋へ。
行かねばならぬところに行ったりしていたら河庄に間に合わず、紙屋内からみる。なんだか久しぶりに文楽を観るような気がしたが、気のせいではないのだった。夏はテンペストしか見なかったからなー。

「まだ曽根崎を忘れずか」と呆れながら立寄って
布団を取つて引退くれば
枕に伝ふ涙の滝
身を浮くばかり泣きゐたる

紙屋内をみていると、いつもここで、おさんと治兵衛両方のやるせなさや憂いがどどっと押しよせきてMaxになり、参ってしまう。私の中で、紙屋内はここでもうほとんど終わっている。以降はその惰力で転がっているような気がするくらいだ。あくまでも私の中での話。
結局のところ、私は綱大夫さんの浄るりが好きなのだなぁと思った。可愛さあまって憎さ百倍みたいな頃もあったが(あったのか?!)、今となってはその浄るりの、土台というか屋台骨みたいなもののことを大事に思う。その土台は、以前と変わらない。

大和屋は、天網島のなかで一番好きだ。その闇が好きなのだと思う。空気は冷たく、闇は深いけれど、温かみを含んでいる。夜廻りの柝の音(凍えそうな夜にこの音を聞くと、何かほっとする)や、孫右衛門の存在がそうさせるのだろう。でも一方で、話は淡々と二人の死へ向かって歩を進めていく。その淡々さ加減が、またたまらない。

孫右衛門といえば、玉女さんの孫右衛門は、その不器用なところがよくでていたと思う。それが色んなことを、引き立てていた。