落語三連荘

全身をアンテナにして、客席の雰囲気を感知している・・・と思えば、そんなことは思慮の外、登場人物そのもの。のような一瞬があって、その両方を行ったりきたりしている様がおもしろく、ずっとみていたいよう・・・と思う。どちらにも行ったっきりにはならず、もしかして常に両方を持ち合わせてるのでは?!と思うと、こわいくらいだ。
久しぶりに、この時間がずっと続いてほしいと熱望した。
きっと、喬太郎さんには中毒性があるに違いない。


今回の東京は、初日に文楽をみて、そのあと落語三連荘。今は、小劇場より演芸場にいるほうが、体調がいいのであった。私は、体には忠実なのだ。
その三連荘のはなが「雀々喬太郎二人会」。
喬太郎さん一席目の「擬宝珠」は、その全身アンテナの方がたくさん出ていて、なんだか、あらま。であった。アンテナも、過ぎるとしんどそう。
雀々さんは「手水廻し」と「一文笛」。雀々さんの「ちょうず」の言い方が大好きで、でもこれは、東京の人にも同じようにおもしろいんだろうか・・・と心配していたのだが、結構うけていて、なぜかほっとする。


翌日は、池袋演芸場中席。
寄席に行くということだけを決めていて、どのみち東京の噺家さんはほとんど知らないので、鈴本でも末広亭でもよかったのだけれど、前の日に喬太郎さんの池袋&ソープ嬢賛歌のような「結石移動症」を聴いたら、池袋に行きたくなったのだった。

想像していた以上に狭く、客席に入った途端の、おじさんの渦にむせ返る感じ、そこで次々繰り出される落語や漫才、なんというか・・・本当に濃いところだった。時々は、酸素補充にロビーにでなくてはいけないくらい。でも、不思議と居心地がよくて、クセになる。繁昌亭にもまだ行ったことがないのに。

「何しろ、日本代表だからね〜」が、元九郎さんのネタだとは知らず、ふいに聞けたので、「うわ〜、本物や!」とテンションがあがる。ひとり、ミョーにあがる。
そして、ロケット団がめちゃめちゃおもしろかった。これまで、東京の漫才なんか聞けるかい。という人生だったのだが、悔い改めることにしました。

昼の部のトリは、フィリピン帰りの権太楼さんで「青菜」。これぞ、愛嬌。というものが、こぼれ落ちそうな高座で、初めて「青菜」を面白いと思う。

夜の部のトリは、さん喬さん。マクラで、前に出た喬之助さんのことを、いつの間にか成長していて・・・みたいに言わはったあと、「喬太郎は・・・あれは、もうよそのうちの人のようです」とつぶやきはったのが、ネタとは言え、おもしろかった。
放蕩の末勘当された若旦那が、どんどん落ちぶれて、炎天下の中を歩きまわる。じりじりと照りつける太陽、暑さ、ひもじさに、若旦那が弱っていく様子が、たっぷりの間で、丁寧に描かれる。
前の日、喬太郎さんが雀々さんに
「なんでそんなに間をとれるんですか?僕らは怖くてできない。」(この、怖くてできないというのは、よくわかる)と聞かれて、
「東京に、柳家さん喬というひとがいて、そのひとの弟子なもんですから」みたいなことを言うてはったのだが、さん喬さんのは、超絶妙、もう少し長いとくどくなる、その、ぎりぎりのところでの寸止めで、それが噺のあちこちに登場し、しびれた。
私は、落語に限らず、この寸止めというのに本当に弱い。


そもそも、密かに愛読しているブログのライターさんが喬太郎さんのことを褒めちぎっていて、それで聴きたくなったのだが、その方が他に褒めていたのが、三三さんと小三治さんであった。その三三さんと喬太郎さんの二人会である。
愛知御津という駅の、場所がどこかも知らずに、聴きたいなー、愛知というくらいだから東京の帰りに寄れるだろう・・・と軽い気持ちでチケットを取った。軽率だった。東京からなかなか辿り着かなかった。おかげで、駅に降りたってから、ホールまでの道すがら、頭の中では「思えば遠くへきたもんだ〜」が、“その歌詞ばっかりリピート”で鳴り響き・・・。

でも、結論を言えば、そんなことはなんでもなかった。むしろ、軽率なオレよ、ありがとうというぐらいであった。
三三さんは、「唐茄子屋政談」(2日の間に、違う噺家さんで同じ噺を聴く、これはだいぶ、おもしろかった)と「権助提灯」。
あの若さで落語が身体の中にちゃんと落ちている(というのだろうか・・・?)のが、すごいなぁと思う。乖離していないというか。

間違いない。あのブログのライターさんと私の好みはかなり近い。・・・ってことは、小三治さんも、聴くとはまってしまうのだろうか?

そして、喬太郎さんが「松竹梅」と「死神」。
「死神」の後半、世界を手に入れたと思った男の高笑いの卑しさとか、意思に反して穴へ連れ込まれる焦燥とか、ほぇ〜〜(←言葉になってない)と思った。そして、底知れない。聴き始めてたかだか数席、当たり前といえば、当たり前なのだけれども。
全貌がわかるまで、中毒症状もおさまらないだろうなぁ。
大変マズイ兆候であります。